霜小倉3/100
あしひきの女形(おやま)のそその したたりの
なきながしをよ ひとり食(は)みてむ
/柿麻呂
現代語訳
遊女の膣から滴ったもの、
もうただの布のシミとなったものをです。
ひとりで口に含んでみよう。
解説
あしひきの
は通常、山や峰(お)にかかる枕詞ですが、ここでは
女形(おやま)
にかかっています。非常にユーモラスな使い方ですね。
現代では女形というと歌舞伎で男性が女性の役を演じることをもうしますが、この時代ですから原義どおり、遊女、花魁のことだと読んでよろしかろうと思います。
遊女の
そそのしたたり。
いわゆる愛液、バルトリン氏腺液でございますね。
さて、ここで枕詞であるあしひきの、が効いてまいります。
あしひきの自体の意味の解釈には諸説ございます。
1.なだらかな大和の山になぞらえて、すそ野の方まで稜線がすーっと引いているからという説。
2.山のすそ野ではいろいろなものが採れるからという説。「引く」という言葉には、「色々なものを与える」という意味もございます。
3.山道を往来するのに、足を引きずって歩くからだという説。
4.漢字で「足疾」や「足病」という書き方があることから、(足に欠陥がある)山の神さまと関係があるのだという説
諸説ございますがここでは3の説が近いのではと私は考えます。
足を引きずってなかなか前にすすめない。越えるのに難渋する山であると。
つまり、一夜限りの恋を楽しむために呼んだ遊女に恋をしてしまった。
忘れられないという気持ちです。また会いたい。置いていく思い出としては大きすぎる。
それほどまでに惚れ込んでしまった遊女がいたわけですね。
柿麻呂はどうするか?
なきながしをよ
ここはいわゆるダブルミーニングでしょう。
遊女が、まるで泣くように流したしたたりをだよという意味と、もう流れはない、ただの布団のシミになってしまったものをだよというふたつの意味。「をよ」で強調することによって、捨て鉢な感情を表現しています。
この捨て鉢から
ひとり食(は)みてむ
という悲しいクライマックスが描かれるわけですね。
遊女の膣から滴ったもの、
つい昨夜まではあんなに活き活きと流れ落ちていて、
いまではもうただの布のシミとなったものを、
ひとりで口に含んでみよう。
変態みたいだろう。おかしいだろう。
それでも忘れられないんだよ。
という強い気持ち。私も胸が痛みます。