霜小倉11/100
股のはり 八十島(やそしま)かけて濃き出でぬと
人には告げよ 海人(あま)の売り舟
/小篁
現代語訳
股は張っている。長く生きて多くの経験をした人だけど、まだまだ濃いのがたくさん出たよと
人には言っておいてね。海女さんののった売春舟よ。
解説
なにがあっても流されまいと、性豪としての自分を貫き通そうとした小篁の歌です。
上の句だけを読むと非常に逞しい印象を受けます。
しかし篁も老いたのです。どうしても下半身は衰えます。
ある日海女さんの闇商売、「貝売り」に出くわした篁。
勇んでことに及んだのですが、息子が言うことを聞かない。
そのうちに時間がきてしまいました。できなかった。
くやしい。恥ずかしい。人にはいわないでほしい。
だけどプライドが許しません。
クールに売春舟から降りた篁。
去り行く舟を眺めながら、自分の生涯を振り返ります。
沢山の島(八十島)を巡るように、多くの経験をしてきた。
俺は強かった。しかしもう終わりかもしれない。
でもやはり、どうか人にはなさないでくれ。
あいつは老いてもまだ逞しかったのだと、人にはそういってくれよ。
徐々に小さくなって波間に消えていく舟が、篁の孤独を見事にあらわしています。
なお、このあと彼は隠岐にながされました。